2022/6/20
2020/10/26
【連載:大麦と健康 vol2】大妻女子大学 名誉教授に聞く大麦の効能
大麦の持つチカラについて、日本で早くから大麦食の普及に取り組んでいる池上幸江先生(大妻女子大学名誉教授)に聞く連載。今回は、大麦の持つ「糖尿病とメタボの予防」につながる働きについて伺いました。
目次
高血糖、メタボ予防につながる食後血糖値のコントロールとは?
大麦には「食後の血糖値の低下」につながる働きがあることが分かっています。食後の血糖値を下げることは「糖尿病とメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」、いわゆるメタボの予防につながるものです。
基本的に人の食事には炭水化物や糖質が含まれています。私達が日常摂取する米や小麦の炭水化物であるでんぷんはグルコース(ブドウ糖)が結合してできています。でんぷんは消化されるとグルコースとなって血液中に取り込まれます。食後の血液中のグルコースの量が増えた状態は「食後血糖値」と呼ばれます。食後血糖値は健康な人では、食後の30〜45分に最も高くなり、90〜120分ほどで元に戻っていくのが一般的です。
しかし急激な血糖値の上昇や高血糖の状態が続くと、血糖をコントロールするインスリンというホルモンの働きが低下し、これを放置すると糖尿病になります。わが国では近年糖尿病の患者や予備軍が増えています。グルコースはエネルギーとして消費されないと脂肪となって体内に蓄積されます。
大麦は、図1に示すように他の穀物に比べて食後血糖値の上昇をおだやかにする作用があります。血糖値の上昇を抑えることで、吸収された糖質が余分なエネルギーとして糖質が脂肪になることを予防してくれるのです。
大麦を上手に日々の食事に取り入れよう!
糖尿病やメタボ予防にはまず炭水化物や脂肪を摂りすぎないことと、栄養素の給源となる食品として何を選ぶかが大切です。そこで、注目したいのが大麦です。大麦は図1に示すように他の穀類に比べて血糖値が上がりにくいことと、図2に示すように食欲を抑えて満腹感を持続する効果があります。そのために、例えば朝食に大麦を食べ、昼食に大麦を食べなくても食事の量が少なくなります。これを大麦のセカンドミール効果といいます。
つまり、大麦を摂り入れることで、無駄に多くの食事を食べることがなくなり、ダイエットにもつながるというわけです。1日1回の5割麦飯を続けた中年男性グループでは3か月後には内臓脂肪が低下しましたが、白米を続けたグループでは変化がありませんでした。高血糖やメタボで悩んでいる人は、無理な食事制限をするのではなく、大麦を食べることから体質改善を始めてみるのも良いかもしれません。
コレステロール値や血糖値が高い人こそ「大麦」を
大麦のメリットの一つが、パンやご飯といった主食として、日々自然に食べることができる点です。
セカンドミール効果は、1日のすべてでなく1食だけ大麦を取り入れることでも働きかけてくれる可能性があるため、例えば、朝食の主食を大麦パンに変えることから始めてみてはいかがでしょう。ここまでで大麦がコレステロール値や血糖値が高い人の手助けをすると同時に、健康な人の日々を維持する力を持っているということが分かったと思います。
かくいう私も毎日大麦ご飯を食べているおかげか、年を重ねても全く病院にかかることなく生活ができています。また近年、大麦の持つ腸内細菌の改善、免疫機能の向上やアレルギー低減、高血圧の低下といった健康機能の研究も始まっています。毎日の健康のために、大麦を積極的に摂り入れることをオススメします。
■今回インタビューさせていただいた方
大妻女子大学名誉教授 池上幸江先生
1963年大阪大学薬学部を卒業し、厚生省(当時)の研究所に入る。1987年に米国ミシガン州立大学に1年間留学、1999年大妻女子大学の教授となり2010年停年退職。薬学博士、国立健康・栄養研究所名誉所員、大妻女子大学名誉教授、大麦を含めた食物繊維の研究、環境汚染物質の研究などを行う。