2022/6/20
2020/7/15
【連載:大麦と健康 vol1】大妻女子大学 名誉教授に聞く大麦の効能
大麦の持つチカラについて、日本で早くから大麦食の普及に取り組んでいる池上幸江先生(大妻女子大学名誉教授)に聞く連載。 今回は、大麦の食物繊維が体に与えてくれるステキな効果について教えてもらいました。
目次
健康のために大切な食物繊維
食物繊維は食事中の栄養成分や食品成分の消化吸収を抑制し、生活習慣病の予防につながる他、腸内細菌を始めとする大腸の機能を正常化する力がある重要な成分です。
厚生労働省が発表している近年の日本人の栄養摂取状況を見ると、食物繊維においては、1日の目標量19g以上に対して、平均的な摂取量は15gとなっており、目標に届いていないことが分かります。
ただ、「食物繊維を摂らなくては」と思っても、何の食材をどの程度食べればいいのか知らない人も多いかもしれません。一口に食物繊維と言っても取れる食材は多岐に渡り、その含有量や種類も異なります。
食物繊維と聞くと、まず野菜や果物が思い浮かぶかもしれません。もちろん野菜には食物繊維が豊富ですが、1日の目標量とされている野菜350g以上、果物200g以上を食べても食物繊維を充足することはできません。
これは野菜だとサラダ約5皿分に相当し、毎日摂るのはなかなか大変です。その一方で、野菜よりもはるかに多い食物繊維を含有しているのが穀物であり、近年注目度が高まってきました。
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維
食物繊維には、水に溶けない「不溶性食物繊維」と水に溶ける「水溶性食物繊維」があります。不溶性食物繊維は大腸で水分を含んで、便を増やすことで排便の改善につながる一方、水溶性食物繊維は多くの場合、小腸内でゼリー状になり食べ物を包み込んで消化吸収を穏やかにする働きがあります。
どちらも体の健康や腸内環境には大切な要素ですが、含まれる量や比率は、食物繊維が豊富な穀類のなかでもまちまちです。野菜は一般的に穀類に比べて含量が少なく、不溶性の割合が高くなります。一方穀類でも米は玄米でも食物繊維が少なく、小麦では未精白では不溶性食物繊維が多く含まれますが、精白すると減少します。他方、大麦やオートミール(燕麦)は精白後も食物繊維が多く、水溶性の割合が高いことに特徴があります。
水溶性食物繊維とβ-グルカンがもたらす健康効果
大麦が多く含有している水溶性食物繊維には、β-グルカンという成分が含まれています。
β-グルカンは人の健康機能に関わる働きをすることが分かっています。大麦の健康機能としてまず挙げられるのは、「血中コレステロールの低下」「食後血糖値の低下」「大腸内環境の改善」があり、現代人の健康づくりに大きな関係があるといえます。
例えば、血中コレステロールの高い人が1日1回5割麦飯を食べた場合、1~3か月でコレステロールは下がりますが、白米を食べた人では変化がないという研究データがあります。大麦のβ-グルカンは悪玉コレステロール(LDL-コレステロール)を下げますが、善玉コレステロール(HDL-コレステロール)には変化がなく、高脂血症を改善する働きがあります。
大麦の食物繊維は大腸において、腸内細菌叢の改善を介して、免疫機能の活性化と正常化をもたらすことが最近の研究で明らかにされています。消化管に存在する免疫は自然免疫といわれ、免疫機能全体の7割を占めるといわれています。
次回は、大麦と血糖値やメタボの関係、上手な食べ方について紹介します!
■今回インタビューさせていただいた方
大妻女子大学名誉教授 池上幸江先生
1963年大阪大学薬学部を卒業し、厚生省(当時)の研究所に入る。1987年に米国ミシガン州立大学に1年間留学、1999年大妻女子大学の教授となり2010年停年退職。薬学博士、国立健康・栄養研究所名誉所員、大妻女子大学名誉教授、大麦を含めた食物繊維の研究、環境汚染物質の研究などを行う。